ピアニストの指が痛い？
へバーデン結節とピアノ演奏の関係と対処法

休日の午後。聞こえてきたピアノの音色に誘われて行きついた都内皇居二重橋側の歩行者天国。音の発信源は路上に置かれたストリートピアノだったそうです。実弟の話です。

この頃、商店街や駅などに誰もが自由に弾けるストリートピアノを置く動きが活発になっているそうで、そこでも通りがかった腕自慢の「ピアニスト」らが次々に思い思いの曲を演奏していたようです。

もちろん実弟もその一人で、クリストファー・クロスの「セイリング」などを弾いたそうです。

当院のお客さまの中にも毎週のようにライブ活動を行なっている五十代の男性アマチュアピアニストがいます。演奏で心身をリフレッシュさせると仕事の疲れが一気に吹き飛んでしまうそうです。

ところが、このお客さまは年々、両手の指の第一関節が変形し、赤く腫れて痛むなどの症状に悩まされるようになりました。

病院では、ヘバーデン結節と診断されました。レントゲン写真を撮って関節のすき間がなくなっていたり、骨棘といって指の骨がトゲのようになっているところが見つかると、そのような診断が下されます。

ヘバーデン結節は、指の第一関節の変形や痛みを引き起こし、ピアニストの演奏に様々な影響を及ぼします。

トリルや細かいパッセージ、装飾音符などを正確に演奏することが難しくなります。

指の関節がスムーズに動かせず、意図した音量や音色が出しにくくなります。

痛みによって集中力が低下したり、疲労しやすくなったりするため、長時間の練習や演奏が難しくなります。

痛みを避けるような演奏になることで、ダイナミックな表現や繊細なニュアンスを出すことが難しくなる場合があります。

このように、ヘバーデン結節はピアニストにとって、技術的な制約だけでなく、音楽的な表現においても大きな課題となる可能性があります。

しかし、この病気は原因不明で明快な治療法がありません。

一般的には、あまり指を使わない、痛くて我慢できない場合はテーピングやステロイド注射というのが対症療法です。変形がひどくなってしまったら指のコブを切除する、人工関節にするなどの手術療法もあります。

ピアニストは、他の職業やスポーツと比較しても、非常に特異な方法で指を酷使します。

主に肩や肘などの大きな関節に瞬間的な強い負荷がかかることが多いのに対し、ピアニストは指の小さな関節に高速かつ複雑な動きが長時間にわたり繰り返されます。

手首や指の腱鞘炎などが起こりやすいですが、これは持続的な同じ姿勢での負担が主な原因です。一方、ピアニストは、多様な指の動きと微妙な力のコントロールが求められるため、関節への負担の質が異なります。

手や腕に力を加える動作が多いですが、ピアニストは力強さだけでなく、独立した指の繊細な動きと連動性が重要となります。

このように、ピアニストの指の使い方は、特定の関節への集中的な負荷や、持続的な静的負荷とは異なり、微細な関節や筋肉、神経系に特有の負担をかけるため、ヘバーデン結節のような特有の障害が発生しやすいと考えられます。

当院のお客さまはこうしたアプローチは嫌だということでいらっしゃいました。なんとか病気の進行を抑え、痛みを緩和させたいという願いです。

私たちは、へバーデン結節が閉経後の女性に多いという統計データなどや最新の研究成果から、ホルモンバランスの乱れや血行不良、免疫機能の低下が改善されるよう首肩や脊柱のゆがみを整えるという施術を選択しています。

この日の夕方、実弟と一緒にジャズピアニストに転身した大江千里さんのライブを聴きに渋谷のブルーノート東京に行きました。大江さんも著書「ブルックリンでジャズを耕す」で鍵盤の叩きすぎによる指の不調を何度か訴えられていたので心配していました。

しかし、ステージでは新作をたっぷりと披露され、ジャズ風にアレンジされたレインなどの代表作も軽快に演奏、不安は一掃されました。トリオの掛け合いは見事で素晴らしいという感嘆符に尽きるライブでした。

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